東京高等裁判所 昭和29年(ネ)2340号 判決 1955年4月25日
(控訴人 (原告)) 三町恒久
被控訴人(被告) 国 外三名
訴訟代理人 小林定人
主文
本件控訴はいずれもこれを棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人訴訟代理人は「原判決を取消す。地方自治法第二百八十一条の二のうち特別区の区長選任の方法に関する規定、すなわち「特別区の議会が都知事の同意を得てこれを選任する」とある部分は、憲法の定めに違反する無効のものであることを、被控訴人等四名との関係において確認する。東京都知事の同意を得ても世田谷区議会は世田谷区長を選任する権限を有しないことを、被控訴人世田谷区議会及び被控訴人東京都知事との関係において確認する。東京都知事安井誠一郎の同意の下に昭和二十八年九月三十日の東京都世田谷区議会において為された被控訴人長島壮行の世田谷特別区長の選任及び就任は無効であることを、被控訴人等四名との関係において確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人等の各訴訟代理人はいずれも控訴棄却の判決を求めた。
当時者双方の事実上の陳述は、原判決二枚目(記録第九四丁)裏十行目に「昭和二十三年四月十七日」とあるは「昭和二十二年四月十七日」の誤記と認め訂正し、同判決三枚目表四行目の特別区の次に「の議会」と挿入する外、いずれも原判決事実適示の記載と同一であるから、ここにこれを引用する。
<立証 省略>
理由
一、ある法規が憲法に違反するから無効であるということを理由とする訴は、一般的抽象的にある法規の無効の確認を求めることでは許されないのであつて、何等か具体的な権利義務に関する争がある場合に、その理由においてのみ許されるものである、(東京高等裁判所昭和二四年(行ナ)第三号、同年一二月五日第四特別判決、最高裁判所昭和二七年(マ)第一四八号、同二八年四月一五日大法廷判決参照)。本訴の請求原因として控訴人の主張する事実は、東京都世田谷区議会において昭和二八年九月三十日に行われた特別区長の選任という具体的な法律上の紛争であつて、裁判所の審判の対照となるものの如く見えるが、その解決として求めている判決の請求の趣旨の第一、第二項は、畢竟抽象的に法規の無効の無効確認を求め、且つ抽象的に法律より生ずべき行政庁の権限の不存在の確認を求めるものに外ならない。二、いわゆる民衆的訴訟とは一般人がその公共的行政監督的な地位から、行政法規の違法な適用に対し、これを是正するために提起する訴訟であつて、性質上当然には裁判所法第三条にいう「一切の法律上の争訟」中に包含されない。ただ法律に特別の規定がある場合にのみ、その提起が許されるものである(前掲東京高等裁判所判決参照)。そして控訴人が請求趣旨第三項の判決を求めるということは、畢意法律に何等規定のない許さるべからざる訴訟に外ならない。
当裁判所は以上の見解の下に、控訴人の本訴を不適法であると判定するものであるが、その理由の詳細は、原判決の理由に説示せられているところと全く同一であるから、原判決の理由中の法律上の判断をここに引用する。
そうだとすれば、控訴人の本訴請求はすでにこの点において許されないものであるから、爾余の争点についての判断を省略し、これを却下すべきものとする。したがつて原判決は相当であつて、本件控訴はいずれも理由がない。よつてこれを棄却すべきものとし、行政事件訴訟特例法第一条、民事訴訟法第三百八十四条第一項、第九十五条、第八十九条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 斉藤直一 菅野次郎 坂本謁夫)